いい未来で会いましょう

 連続性を持ったアルバム群の完結をもってバンドの活動をも完結させると決意した友人。生活の中心に据えていた大切なバンドを不本意な形で脱退することになった友人。バンド解散がきっかけとなって自己啓発セミナーにハマって音楽をやめてしまい、気づいたらTwitterのアカウントが凍結されていたかつての恩人。お互い切磋琢磨してきたはずなのに気づいたらとんと音沙汰のない昔なじみのバンドたち。

 僕がリスナーとして、またソングライターとしてバンド・シーンに出入りしはじめてからもう10年近く経つ。その年月のあいだにいろいろなバンドたちの物語を見てきた積み重ねを通じて、いまさらながら確信したことがある。

 

 音楽を続けている、続けることができている、そのこと自体がひとつの価値だ。

 

 去年の秋くらいだろうか、For Tracy Hydeは2020年に解散する、とメンバーや身近な人たちに話したことがある。

 理由はいたって単純で、僕が2020年10月5日に30歳の誕生日を迎えるからだ。僕らが志向する青春の瑞々しい心象風景を描写したネオアコやドリーム・ポップなんて30歳にもなってやる音楽でもなかろう、という発想は、いま思えば我ながら安易すぎて少し笑える。

 ここまでの話の流れで見当がつくかとは思うけれど、いまの僕には2020年にバンドを解散させようという意志は毛頭ない。For Tracy Hydeが続くことが、僕らの仲間たちにとって少しでも励みになると信じたい、そしてひとりでも多くの仲間が僕らと一緒に音楽を続けてくれる可能性に期待したいからだ。

 もちろん、For Tracy Hydeを一生続くライフワークにしようという考えはまったくないので、遅かれ早かれどこかしらのタイミングでバンドに区切りはつける。そのタイミングがたまたま2020年になってしまうことだって充分ありえる。ただ、もしそうなってもそれは「僕が30歳になったから」などというふざけた動機に基づく決断ではないことはここに明言するので、あらかじめご理解いただきたい。僕がこのバンドをやめても音楽自体をやめるわけではない、ということも併せて。

 

 僕は音楽をやめない。だから君たちにも続けて欲しい。

 

 いちど音楽をやめてしまった人たちも、戻ってこれたらいつでも戻ってきて欲しい。

 

 敬愛するThe Novembersの小林祐介さんがライブの最後によくおっしゃる言葉が「いい未来で会いましょう」なのだけれど、ほんとにね、とつくづく思う。いい未来で会いましょう。