電気羊は魚の夢を見るか(『(plus fish dream)』を終えて)
すっかり日が空いてしまいましたが、改めて先日の夏bot個人企画『(plus fish dream)』に関わったすべての方々に厚くお礼を申し上げます。自分が主催ないし共催としてイベントの企画をするようになって以来の最高傑作と言えるイベントになったと感じているのですが、それもひとえに素晴らしい共演者と素晴らしいオーディエンス、そして素晴らしい会場があってのことなので、どれほど感謝してもしきれません。
親しみやすいポップネスを持った楽曲と衝動性のあるパフォーマンスで湧かせてくれた渦。
音源から想像していたよりもずっと力強い演奏と萬雲君の歌声が印象的だったズカイ。
あまりに完璧なエモとシューゲイズ/ドリーム・ポップの融合で文字通りフロアの空気を一変させたBearwear。
躍進のさなかでいままで以上にぐっと来る歌心とテンションの制御を身に着けた感のあるI Saw You Yesterday。
どのバンドもいま思い出しても感動するような演奏でした。弊バンドもなかなかよい演奏をお見せできたのではないでしょうか。当日の様子は皆様ズのパラダイスさんが撮影してくださったこちらのダイジェスト映像でご覧ください。
さて、閉演後は終電までよいバイブスでだらだらと中打ちが続き、最後まで残った出演者を見送ってから僕はとある先輩バンドマンと軽くごはんを食べてタクシーで帰ったのですが、そのごはんの席で話題になったのがインディ・シーンにおけるさまざまな「分断」でした。かいつまんで説明すると、
・いまのインディ・シーンは音楽を好きでしかたない/仕事しながらずっと続けられるだけの経済力がある中年世代と、モラトリアムのただ中でまだ将来を心配せずにのびのび音楽をやれる学生世代が大半を占めており、20代中盤から30代前半くらいの歳の近いバンドがかなり少ない。そのため若くて才能のあるバンドとおもしろいことをしようと思うとそのバンドが極端に年下になってしまい、交流しづらい(世代の分断)
・インディ・シーンのバンドは仲間が少ないという思い込みからか同系統の同郷のバンドとばかり関わりがちで、地域を超えた交流が薄い。「大阪」「京都」といった小さい主語で「○○○のインディ・シーンがアツい!」などと語るメリットの薄さに気づく人が少ない(地域の分断)
・少し上の世代まではインディ・シーンにおいてDJとバンドがイーブンな関係にあるクラブ・イベントや、パンクやハードコアなどの他ジャンルとの交流が盛んに行なわれていたが、それもいまでは失われつつある。ライブ・イベントにおけるDJの役割がBGM係でしかなくなってしまっている(ジャンルの分断)
・少し前までだったらイベンター/DJ/中堅〜ベテラン・バンド/レコード屋がハブやキュレーターの役割を担い、世代/地域/ジャンルを超えてバンドたちを繋いでいたが、そうした役割を積極的に担おうとする人も減っている。本来であればユーザー側に選択肢が多数あって「このキュレーターの感性は自分に合わないからこっちに行こう」となるはずが、現状では下手すると特定のキュレーターと感性が合わないことがシーン全体への関心をなくすことに繋がりかねない。
・インディペンデントであることにこだわりすぎるとインディ・シーンは確実に分断が進んで先細りし、魅力のないものになる。
この話は自分としても思い当たる節があり、とても刺さるものでした。このことについて帰りのタクシーであれこれ考えを巡らせているうちに、自分がバンドやイベントを通じてやりたいことがより明確になりました。
僕が目指しているのはそれこそ「世代/地域/ジャンルを超えてバンドたちを繋ぐキュレーター」なのだろうな、といま感じています。
幸いにもFor Tracy Hydeは無名のインディ・バンドとしてはかなり動員が安定しています(もちろん動員は水物なのでずっとこの水準で人を呼び続けられる保証はどこにもありませんが……)。なので「動員はまだ少ないけれどとてもいい音楽をやっているバンド」「ふだん活動しているシーンは違うものの親和性があるバンド」「まだ東京には浸透していない遠方のバンド」などを対バンにお招きして、僕たちができるだけたくさんの方を集めることで大勢の目に触れる機会をご用意するのがひとつの健全な形なのかな、と僭越ながら思います。「みんな一緒に上に行くぞ!」などと言い出すとしゃらくさい感じになりますが。
そんなこんなで僕としては大変実りのある企画でした。今回得たものを活かして来年の8月も楽しいパーティを開けたらと思っておりますので、また来年も遊びにいらしてください。
最後に転換BGMのご紹介を。
Drop Nineteens/(plus fish dream)
Dick Dale and His Del-Tones/Misirlou
Adventures in Stereo/Dream Surf Baby
The Jesus and Mary Chain/Kill Surf City
Teen Runnings/Our Love is True