Reverb, Lots and Lots of Thick, Gorgeous Reverb...

 コンビニで買いものをしていた自分を、けたたましい音がふいに襲った。

 やたら高音が耳に刺さるその音の正体がなんなのかは、コンビニの店長が壁面に埋め込まれた赤くて四角い物体に近づいてゆくまで自分にはわからなかった。

 火災報知器だ。

 故意にせよ過失にせよ、押したと思われる人は特に見当たらないし、もちろん店内から出火しているわけでもない。ほどなくしてコンビニが入っているマンションの管理人が店にやってきて、店長と話しはじめた。どうやらマンション全体で報知器が鳴ってはいるものの特に火が出ているわけではなく、誤作動であるらしかった。

 外に出てみるとなるほど、たしかに建物中から件の音は響いていた。耳障りな騒音を背に僕はなるべく足早にその場を立ち去った。

 僕の家はコンビニから徒歩2〜3分程度の場所にあるマンションの最上階で、騒音の発生源に極めて近い。実際、家の玄関先に立ってもその音はそれとわかる形で耳に届いていた。

 ところが、だ。

 大都市に住んでいると実感が湧きづらいかもしれないが、郊外の夜はくしゃみが響き渡るほど静かで、特に僕が住んでいる辺りはマンションが多いせいか壁の反響も強く、音がよくこだまする。

 そんな環境でいくつもの壁に跳ね返され、何重にも残響に包まれて輪郭がぼやけた報知器の音は、ほとんど秋の虫のような遠く涼やかな音色で聞こえていた。朝から続いている雨音や、どこかの道路をよぎる車の走行音とも相まって、思いがけぬ美しさを見いだしてしまい、僕はしばらく立ち止まってそのまま耳を傾けていた。

 僕にとってシューゲイズとはちょうどそんな音楽だ。

 残響に包まれた火災報知器の音が美しいように、哀しみや怒りや欲望や絶望を託されたけたたましい轟音がエコーやリバーブによって曖昧に滲み、遠い国の見知らぬ誰かが見る夢みたいに脆く儚く美しく響く。

 リバーブは優しさだ。

 そんなことを思いながら僕はリバーブ・ペダルのつまみをそっと回し、目盛をひとつ上げる。