同じ年にふたつのバンドでアルバムを出すということ

 ご存知の通り、僕は旧来のFor Tracy Hydeに加えて今年の4月よりエイプリルブルーという新バンドでもソングライターとして活動しています。

 For Tracy Hydeは9月4日に3rdアルバム『New Young City』をリリース。一リスナーとして長らく愛聴しているシューゲイズやネオアコ、J-Pop、下北系などといった音楽と改めて真っ向から向き合い、日本人らしい親しみやすいメロディと繊細な季節感や言語感覚を洋楽的なサウンド・デザインに落とし込んだ作品です。

 

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 かたやエイプリルブルーは本日デビュー・アルバムのレコーディングが完了。こちらは洋楽的な要素は香りづけ程度にとどめ、もっと素直にJ-Pop的な曲調を追求しているのですが、時折溢れ出す轟音ギターやオルタナ然としたライブ・パフォーマンスなど、いかにも自分のバンドらしいな、と感じる要素もちゃんと残っています。

 

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 ‪今月の『MUSICA』でFor Tracy Hydeのインタビューをご一読くださった方ならご理解いただけていると思うのだけれど、僕は本気で自分のルーツに当たるインディ音楽にメインストリームでのポピュラリティを獲得させたくてバンドをやっています。そうすることでメインストリームの音楽は多様化してより豊穣になり、インディからメジャーに至るまでバンド・シーン全体の活性化/延命に繋がると思っているのです。‬
‪ いま参加しているふたつのバンドは音楽的には似ているようで違って、でも思想の面では違うようで似ていると思っています。どちらも極めて利己的な表現をすれば僕の目標達成のための‬ヴィークルとして機能しているからです。とはいえ、日頃の活動を通じて、僕が思い描いている世界は両方のバンドのメンバーたちにとってもひとつの理想なのではないか、とも感じています。それはつまり、洋楽↔︎邦楽やインディ↔︎メジャーといった二項対立的な発想に囚われずにさまざまな音楽が共存し、互いにインスピレーションを与えあう世界です。

 卑近な具体例を挙げるとすれば、僕はアイドルという一大カルチャーとシューゲイズというニッチな音楽ジャンルをクロスオーバーさせるユニット・RAYに対し、インディ・ミュージシャンという立場から楽曲提供をしています。6月にシンガポールのCosmic Childと香港のThudのジョイント来日ツアーをオーガナイズした際には彼女らをオープニング・アクトに起用。同じツアーにFor Tracy Hydeとエイプリルブルーも参加しています。こうしたフィールドや国籍を超えた交流がより広く見受けられるような世界は、おもしろいものになると思います。僕が先日For Tracy Hydeのワンマンで「売れて、バンドのメンバーやリスナーの皆様にもっといい景色を見せられるようになりたい」と述べたときに思い描いていた景色は、こういった類のものです。

 For Tracy Hydeとエイプリルブルー。このふたつのバンドで今年アルバムをリリースすることには、なにかしら意味があって欲しいです。僕の身の回りでのさざ波にとどまらず、もっと広い海にうねりをもたらすような、大きな力を手に入れたいと願ってやみません。どうかお力添えのほどお願い申し上げます。